2024年一発目の読書は著者・西﨑伸彦の「消えた歌姫中森明菜」を読んだので、今回はこの本の感想を述べたいと思います。
中森明菜はアーティスト
前回は「松田聖子の誕生」を読んだので、次の読むのはこれでしょ!ということでこの本を選びました。80年代の歌姫と言えば、松田聖子と中森明菜で決まりですね。双方、歌手という枠は同じでも似て異なる存在でした。松田聖子は一文字で表すと”陽”で、南国リゾート、真夏の太陽、カラッとした気候といったイメージがあります。対して中森明菜は一文字で表すと”陰”で、翳りある風景、曇天の空模様、湿気を帯びた空気といったイメージがあります。比喩するなら太陽と月で、それぞれに良さがあると思います。
私は松田聖子もよく聴いていましたけど、高校時代は中森明菜に嵌っていました。松田聖子同様、シングル曲も好きでしたが、なんと言ってもアルバムが好きで結構聴き込んでいました。特にアルバム『D404ME』は個人的に傑作だと思ってます。このアルバムには中森明菜の魅力がぎっしりと詰まっていて、明菜ならではのエキゾチックなヴォーカルが、低いところから高いところまで縦横無尽に駆け巡り聴いていてとても楽しいアルバムです。特に低音のヴォーカルは聴いていてうっとりしてしまいます。こんなに声域が広い歌手はそうそう居ないと思いますね。
中森明菜は当時の他のアイドル歌手とは違い、アーティスト志向がかなり強く、曲の制作にもかなり自分の意見を反映させていたそうです。特に拘っていたのが、自分のヴォーカルを前面に押し出さないということです。以前に何かの本のインタビューで「ヴォーカルも楽器の一種だから、他の楽器の音量レベルと同等以下にする」というようなことが書かれていました。
ちなみに、80年代当時の日本の音楽シーンは、洋楽志向が強く、他のアーティストも外タレの真似をしてヴォーカルの音量レベルを下げた録音を好んでしていたようです。サザンオールスターズもそうですね。なので、80年代中盤以降の中森明菜作品はヴォーカルが薄いです。この傾向は80年代後期から更に色濃くなり、中にはヴォーカルが聴き取れない様な曲もあります。この手法だと、せっかくの明菜ヴォーカルの魅力を殺してしまっているようで、なんか勿体無い感じがします。それに、聴いてて疲れちゃいます。90年代に入り、人気に翳りが見えてきた原因の一つに、このヴォーカルを抑えた録音への拘りがあるのではないでしょうか。「策士策に溺れる」と言った感じでしょうかね‥‥☹️
しかし、拘りを持っていたからこそ、中森明菜はアイドル歌手なんかではなく完全なる女性シンガー・アーティストだったのです。
本の感想
この本を読む前は、中森明菜のデビューしてからの生い立ちを、シングル曲とリンクして綴っているものだと想像していました。確かにそんな内容でしたが、読んでいてなんか引っかかる様な感じを受けながら読み終えました。
本の中では、中森明菜があれだけ売れたのは、他のアイドル歌手とは一線と画す才能があるという様な良いところも書かれていますが(それも少々皮肉っぽくですが)、全体的には「負の部分」がピックアップされています。なので、読んでいて気持ち良くなかったんだと思います。しかし、この本の内容は、中森明菜の歌手としての栄光を讃えたものではないのです。むしろ、タイトルの通り「消えた歌姫」は如何にして消えていったかが書かれています。中森明菜は自分の考えを臆さずに喋る人(相手を傷つけても)であったということが終始書かれていて、その事が芸能活動の衰退を招いた一因であると読み取れました。
我々の世代は、中森明菜と言えばやはりあの事件、近藤真彦のマンションの浴室で手首を切り自殺未遂をしたことに強い印象があると思います。この時の事も当然書かれていますが、この事件が芸能界から消えていくことになった起点であるということが解り、ショックを受けました。たしかに、この事件から中森明菜人気が下降していった様な気がします。深くはネタバレになるので書きませんが、やはり、芸能界の巨大組織から疎まれると消されてしまうという事を改めて知りました。そして、それはとても恐ろしいことだと感じました。😱😱
この本を読み終えたら、多少なりとも中森明菜という人物を嫌いになるかもしれません。全体的に性格の悪さを感じさせるエピソードが書かれているからです。そして運も悪い。最初の所属事務所である研音を去った後は、長続きせず次から次へと事務所を移り渡り、それに伴ってレコード会社もワーナーから他に移っていく様を読むに、まさに負の連鎖です。ここで気になるのは、中森明菜を支えるスタッフもまた、長続きせずに明菜ものとを去っていった経緯です。遠回しながらも、明菜の独創的で我が儘な性格に嫌気がさし、とても附いていけなかったということが読み取れます。それと、お金遣いが荒く、事務所に迷惑を掛けたということも書かれています。
悪いところがたくさん書かれていますが、その中でも個人的に一番良くないと思ったのは、家族と分籍してまで縁を切ったことです。母親が亡くなった時に通夜だけで告別式に出なかったり、妹が亡くなった時には葬儀に一切出席しなかったり‥‥余程のことがないとここまでしませんから、言うに言えない事情があったのでしょうが、これは最悪だと思いました。この本では明菜の家族が悪いのではなく、明菜自身の金銭にまつわる被害妄想が招いた事だと書かれていますが、真相はどうあれ、家族と縁を切るような人は絶対に幸せな人生を歩めません。これは天地の法則です。
何だか中森明菜像が私の中で崩れてしまった🤦♂️
しかし、この本は「中森明菜が消えていった原因は本人にある」という趣旨で書かれているので、明菜サイドから語った本を読めば、また考え方も変わるのでしょうが。
もし、そんな本が出版されるなら誰彼の書いた本でなく、中森明菜本人に著してもらいたいです。そしたら絶対に読みますよ。
かしこ
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