iFi audioのフラグシップモデル、iDSD Valkyrieをレビュー

4. 趣味

 リスニング環境は、ヘッドホンは、TAGO STUDIO TAKASAKIのT3-01。イヤホンは、SONYのIER-Z1RとTHIEAUDIOのPrestige LTDです。いずれも、かなり良質なヘッドホンとイヤホンであり、この『iDSD Valkyrie』の実力をしっかりと受け止めて出力していると思います。それぞれの音質を、以前のアンプと比べながらのレビューを書いていきます。出力環境はすべて4.4 mmバランスケーブルを使い、ゲインは三段階中一番低くしてあります。

本体正面。シンプルにまとまっている。ボリュームダイヤルは、やや軽い。
本体背面。USB-Cはデジタル入力と電源入力が独立している贅沢設計。ラインアウトにも対応している、

TAGO STUDIO TAKASAKI T3-01では

 まず、T3-01ですが、このヘッドホンの特徴は、なんといっても「スタジオで聴いている音」が再現されているかのような音質です。その音はかなりの美音であり、とくにヴォーカル域の帯域の広さは素晴らしいです。
 以前の環境は、OPPOのHA-1からバランスケーブルで聴いていました。このヘッドホンは所謂ピラミッド型で、中音域はいいのですが低音域は弱く、出力されてはいますが量が少ないのが不満でした。しかし、この『iDSD Valkyrie』に繋いだところ、低音域の存在感が現れ、デジタル・バスドラムやキックがしっかりと楽しめるようになりました。それでも、もっと低域を鳴らしたく、「XBassII」をオンにしたところ、かなり低音域が色濃くなりました。しかし、この設定だと低域の主張が強過ぎるためか、高音域や中音域とのバランスが崩れてしまい、聴いていて違和感があるので、「XBassII」はオフの方がいいと思います。
 その他では、もともと優しい聞こえ方のするT3-01ですが、その特徴がさらに二段階くらいアップグレードされた感じで、一音一音がハッキリと響くようになりました。解像度もさらによくなり、スタジオ全体が見えるようです。しかし、解像度が上がったせいか、今度は高音域にやや弱さを覚えるようになりました。超高音の荒々しさが消えて、うまく丸められている感じです。しかし、これは、『iDSD Valkyrie』が悪いのではなく、T3-01本来の美音に聴かせる音質が顕著になったからだと思います。個人的に、丸めた高音は好みではありません。美音ではあるのですが……。

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SONY IER-Z1Rでは

 このIER-Z1Rは、かなり変わった構成で、低音域にダイナミックドライバー、超高音域にダイナミックドライバー、そしてこの中間にバランスド・アーマチュアドライバーを採用しています。聴こえ方はダイナミックドライバー的な繋がりのある鳴り方ですが、メリハリがあり、実に聴き心地の良いイヤホンです。
 以前の環境は、ソニーのウォークマン「NW-WM1AM2」で聴いていましたが、同じソニー製ということで相性は抜群でした。とにかく、余分な細分を取り除いたとても澄んだ音でした。この『iDSD Valkyrie』では、まず一番に感じたのが音の奥深さが増したことです。音の広がりもさらに良くなったように感じましたが、何と言っても深まりが凄いです。例えば、ポール・マッカートニー&ウイングスのアルバム「Band On The Run」に入っている「Mrs. Vandebilt」のポールが弾くベース音が凄いです。この曲のベースはポールらしいブンブンベースなのですが、ただブンブン弾いているだけじゃなくて、一音一音かなり力強く弾いているのが分かります。弾き方の音質を通り越して、力強さまで伝わって来たのは今回が初めてです。本当にすごい。
 その他では、T3-01の時と同じ感想で、このイヤホンが持っているポテンシャルを、さらに押し出したような印象を受けました。ただ、T3-01のような弱点はIER-Z1Rにはないので、マイナスに感じる要素はなく、とても聴いていて楽しいです。「NW-WM1AM2」環境でも十分いい音質でしたが、そこから更なるアップグレードした音質は、まさに至高です。今回の3つのリスニング環境の中で、このIER-Z1Rが一番『iDSD Valkyrie』の性能の良さを感じられました。

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THIEAUDIO Prestige LTDでは

 Prestige LTDは、バランスド・アーマチュアドライバーのイヤホンの王様のようなイヤホンで、10 mm ダイナミックドライバー(サブウーファー)1基、バランスド・アーマチュア(BA)ドライバー×4(2つは低〜中域、2つは中〜高域)、そして、エレクトロスタティック(EST)ドライバー×4(10 kHz–20 kHz)の合計9ドライバー構成です。とにかく解像度が高く、今まで聴こえなかったような薄いシンセサイザーの音もしっかりと聴かせ、全ての楽器を余すことなく奏でます。以前の環境は、ソニーのウォークマン「NW-WM1AM2」で聴いていましたが、少々不満がありました。Prestige LTDはインピーダンスこそ22Ωでそれほど高くないのですが、どうも聴いていて音がもたついて鳴らしきれていないのです。絶対的な性能を持っているのに、その性能を引き出せないのはとてももったいない。今回、このハイパワーな『iDSD Valkyrie』の購入原因になった一つには、このPrestige LTDへの思いがありました。ああ、オーディオ沼は深い。
 そして、この『iDSD Valkyrie』で聴いたところ、すべての不満や不安は消え失せて、本来の性能を出しきれています。各ドライバーが余裕のパワーを与えられたせいか、音のもたつき感は完全になくなり、特徴である超解像度はさらに推し進められて、楽器の分離感もより良く感じられるようになりました。特にジャズやクラシックでは、スピーカーでは味わえないイヤホンならではの、脳内で音が鳴る快楽に溺れることができます。素晴らしい。
 一点気になったのが、音質が少々暖音系になったことです。高解像でありながら、ウォームサウンドというのは矛盾しているようですが、もともと、このPrestige LTDにはそういう特徴があるので、この『iDSD Valkyrie』に繋いだことで、その特徴がより顕著になったからだと推測できます。 

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至高のヘッドホンアンプ登場

 以上のことから、この『iDSD Valkyrie』はポータブルDAC/ヘッドホンアンプとして完成された素晴らしい製品だと思います。PC等から受けたデジタル情報を、脚色することなく、抜け落ちることなく、そして、力強く正確に出力する。アナログ化されたその情報は、イヤホン・ヘッドホンの持っている本来のポテンシャルを完全に引き出し、人間の耳に「音の快楽」を届けてくれる。そんなヘッドホンアンプです。
 最高の器を手に入れたので、今度はその器に入れるべく、さらに色々なイヤホンやヘッドホンが欲しくなりました。恐るべし、オーディオ沼。金額は高いですが、わたしのように良い音を求める御仁にはお勧めできる逸品です。

かしこ

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