小説好きならいつかは読まねばと思っていた「カラマーゾフの兄弟」だったが、どの翻訳者の訳を読むべきか迷っていたところ、カラマーゾフの兄弟の翻訳者としては評判の良い、江川卓さんの訳書が今年6月に初めて文庫化されたと知り、全4巻をKindleで購入した。長編小説だということは覚悟していたが、実際ほんとうに長い小説だった。4巻を読み終えるまでに1か月半くらいかかってしまった🥵
読み始めはとっつきにくい
おそらくとっつきにくい小説だろうと覚悟して読み始めたが、ほんとうにとっつきにくい文章でまいった😰長い!何が長いかって語り出すととにかく長いのだ。ひとつの語りが数十ページにも及ぶ。しかも、そこからさらにほかの人物の語りに発展するのだからたまらない。注意して読んでいないと、今、誰の語りなのかわからなくなってしまうことが多々あった。
登場人物は思っていたより多くない。「この人、誰だっけ?」となっても、各巻の初めに登場人物の紹介ページがあるので、そこは問題なかった。メインの登場人物は、カラマーゾフ兄弟の父であるフョードル、カラマーゾフの兄弟の長兄のドミートリイ、次男のイワン、三男のアレクセイ。また、フョードル家の下男で、フョードルの庶出の子と噂されているスメルジャコフ。ドミートリイとフョードルが恋している相手のグルーシェンカ、ドミートリイの許嫁でイワンとも恋仲のカチョリーナ。その他もろもろの登場人物といったところだ。
フョードル殺人事件がすべて
ストーリーは、タイトル通りでカラマーゾフの兄弟とフョードルのことで展開していく。フョードルは金と女にだらしないダメ親父であり、ドミートリイも父同様であり、イワンは理知的であるが性格に問題あり、アレクセイは修道院に勤めていて一番まとも。この4人のエピソードを中心に展開していくが、前半(1・2巻)はそれぞれの人間性が描かれているといった感じで、これといったストーリーはない。3巻で父であるフョードルが殺され、その犯人は長男のドミートリイであるとして拘束される。そして、最終巻の4巻では、この父親殺しの裁判がなされ判決が下されるといったのが大まかな内容だ。
長編小説なので、それぞれのエピソードはあるが、やはりメインはフョードル殺害事件の裁判ということになるだろう。正直言って、1・2巻の内容などどうでもいいとさえ言えるもので、読んでいても退屈なだけだった。とくに宗教を語っているところなどはダラダラ長くて読んでいて苦痛なだけだった。3巻に入ってフョードルが殺され、その犯人がドミートリイであるとされて捕まり、尋問されるところからようやく面白くなった。そして、ドミートリイは父親殺しを否定するが、特にミステリー要素も感じなかったので、犯人はドミートリイだろうと思っていた。しかし、4巻に入り、次男のイワンが下男のスメルジャコフを問い詰めると、フョードルを殺したのは自分だと彼が告白する。そして、裁判になるが、ここがまたグダグダと長い語りが入る。証人尋問はまだよかったが、双方の弁護士の語りが長いので、読んでいて疲れた。結局、有罪判決が下り、犯人はドミートリイとされたが、私は無罪判決になると思っていたので意外だった。そして、三男のアレクセイやカチョリーナらがドミートリイを脱獄させる計画を立てて、ドミートリイ自身も同意するが、脱獄したかどうかは描かれずに終幕してしまう。ここについては中途半端であると感じた。
長編小説の罠
村上春樹さんもこの「カラマーゾフの兄弟」を絶賛していたようで、世の評価も名作と謳われているこの作品だが、私としては、面白くなかった。とにかくグダグダと1人語りが多く、読んでいて疲れるため、内容もあまり頭に入ってこない。今、誰が語っているのかも見失いがちだし、読んでいて「こんなことどうでもいいでしょ、なんで熱く語るの?」と疑問にさえ感じてしまう箇所が、何か所もあった。特に宗教の語りや犬を語っているところは、読んでいてわけがわからなかった。そして、フョードル殺しが、まさかのスメルジャコフであったというくだりは、たしかにミステリー要素があると言えばあるが、決してこの小説をミステリー小説だとは思えない。ミステリーを名乗るには特にトリックがあるわけでもないし、あっと驚くまでの意外性もない。
どうしてこの小説が絶賛されているのか?恐らくだが、この長編小説「カラマーゾフの兄弟」を読破した者が、途中で投げ出さずに読み切ったという優越感からくる驕りではないかと推測する。先に書いた通り、特に前半はつまらないのだが、そこを乗り切って最後まで読み切ったので、「つまらなかった、駄作だ。」と本音を言えず、頑張った自分へのご褒美に「面白かった、名作だ。」と言い聞かせてしまったのではないか👀これは、登山者が登り切った達成感に近いのかもしれない。残念ながら私はまったく面白くなかったのだが、ひとつ収穫があったのは、長編小説を読み切ったという経験を積んだことだ。これで、次に長編小説に手を出しやすくなったと感じる。
かしこ
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