その昔、松田聖子さんが主演した映画『夏服のイヴ』の原作本を読んだので、今回はこの本の感想を語ります。
これまでたくさんの小説を読んできたが、この『夏服のイヴ』は大好きな本である。高校1年の夏にこの小説を読んでとても感動し、夏休みの読書感想文の宿題にこの本の感想を書いた記憶もある。たしか、あまりにもこの本が気に入って、当時二度読みしたと思う。だから今回で3回目の読書になる。この本は言わずと知れた松田聖子さんの主演映画『夏服のイヴ』の原作だが、私は映画は観ていなかった。今でも観ていないので観たいと思うが、ストリーミング動画にもないし、DVD化もされていないので、なんらかの理由で商品化できないのだろう。
純愛の物語り
内容は主人公である藤枝牧子と、その牧子に恋をする青年の西丸秀和、そして妻に先立たれた3人の子供持つ宗方征一郎との三角関係ラブストーリーだ。
大まかなあらすじは、牧子は幼稚園の先生を目指す短大卒業生で、秀和と出会い恋に落ちる。そんな中、宗方の3人の子供の家庭教師兼世話役のアルバイトをする。秀和の自分勝手な所に嫌気がさし、事業に失敗してニュージーランドに移住した宗方を追いかけて、自身もニュージーランドに旅立ち、宗方に好意を抱く。ニュージーランドでの休暇旅行中に宗方からプロポーズを受けるが、日本から牧子を追いかけてきた秀和と合流し、秀和は牧子を取り戻そうとする。そして、最後に牧子は宗方ではなく秀和を選ぶ。
40年ぶりの再会
私が小説好きになったきっかけと言っていい本なので、かなり前からもう一度読み直したいとは思い、ずっと電子書籍化されるのを待っていたが、どうやら映画同様、本も電子化されないようだ。私は中古本は嫌いな質だが、どうしてももう一度読みたいのでAmazonで中古本を買うことにした。届いた本は、もちろん古本なので劣化はしていたが、決してボロボロというわけではなく、まずまずの保存状態の本だったのでよかった。少し前に購入済みであったが、『夏服のイヴ』を読むならやはり夏に読もうということで、このタイミングで読み始めることにした。
時代と共、自分も移る
大筋は覚えているが40年くらい前に読んだ本なので、細部は当然忘れていたのである程度は新鮮な気持ちで最後まで読めた。
今読むと文書は稚拙な感じで、今で言うライトノベルのようなノリだ。実際にこの本は映画の脚本を小説化したものなので、こういう文章になったのだろう。でも、だからこそ高校生の自分に刺さったんだと思う。小説を読んでいると言うよりは映画を見ている感覚で楽しめた。
読み終えてまず感じたのは、「まあ、こんなもんか」という感想だ。
長年、最高に面白いラブストーリーであるという想いが、多少美化していたのかもしれない。それと、さすがに高校生の頃の自分と今の自分では、積んできた人生経験値が違うから、感想が違って当然だ。当時の私は女の子と付き合ったことがなかったので、女の子に対する免疫もなく、女性に対する虚像を描いていたんだと思う。しかし、当時のようなピュアな恋愛観は今の私にはない。哀しいことだが、大人になるということはそう言うことなんだろう。
大切な気持ち
子持ちではあるが人間的に大人であり、包容力がある宗方。過去に女性を妊娠させ堕胎させた疑いがあり、自分の体裁を守ろうとする秀和。牧子は、最終的には秀和の強い純愛に気押される形で彼を選ぶのだが、当時の私はこの結末に甚く感動したのだ。牧子が秀和を選んだ気持ちに深く共感したのだと思う。しかし、今回読み終えてみると、なんだか宗方が哀れに思えた。牧子は宗方を深く傷つけたのだから、酷い女のようにさえ感じる。
結果的に、今回の『夏服のイヴ』を読んで面白かったのは、高校生の頃と現代の自分の感じ方の違いだ。若かった時の自分と、今の自分のセルフ・ジェネレーションギャップだ。
そして、1980年代への甘酸っぱい想いだ。高校生時代をあれこれと思い出し、懐かしさと寂しさが胸に押し寄せてきた。
この本で感動した当時の自分が愛おしい。
過去にはもう戻れない。だけど、大切な気持には戻れるかもしれない。
かしこ
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