日本人の出生率が下がり続け、ついに昨年の新生児は70万人を切り68万6061人となりました。そして、2000年前後には約2万店舗あった書店は、現在の2025年時点で約10,347店舗となり、半減しています。このことから、出生率と読書率の低下は比例していることに気づいたので、私なりに考察してみました。
結婚しない、こどもを産まない。
1973年は「第二次ベビーブーム」の最盛期であり、戦後の第一次ベビーブーム(1947~1949年)に生まれた団塊の世代が親世代となり、出生数が増加しました。この時の出生数は約200万人であり、婚姻数も約100万組ありました。ものすごい数ですね。しかし、2025年現在では、出生数は70万人を下回り、婚姻数も50万組を下回っています。なぜ、ここまで下がってしまったのかを、いくつかの項目に分けてみました。
経済的理由
現実問題として、子供を育てるにはお金が必要です。しかし、安定した職と収入が確保できないと、結婚して子供をつくることに対する不安・恐怖があり、心理的ハードルが高くなっています。夫婦共働きがあたりまえになっているとはいえ、非正規雇用が蔓延している現代社会では、経済的な面で子供を作らないという選択をする夫婦が増えてきているのも事実です。ちなみに、東京都の合計特殊出生率は0.96と全国で最も低い一方で、若者が多いため婚姻件数自体は多いのです。これは、子どもを持たない夫婦や一人っ子が多い状況を示唆します。
高学歴化や女性の社会進出
高学歴を持つ人は、社会に出てから仕事や自己啓発に励む傾向があります。己のスキルアップに時間を費やすことで、結婚は後回しになり、晩婚化が進みます。そうなると、結婚自体に無意味さを感じて結婚願望が失くなり、生涯独身でよいと考えるようになる人も出てきます。また、女性の社会進出が進んだことにより、やはり晩婚化傾向になり、結婚しても子供を望まない女性が増えています。
個人主義トレンドの正当化
個人主義の現代において、そもそも結婚や家庭を望まない人が増えています。「無理に結婚しなくても良い」「子供がいなくても豊かな人生は送れる」という価値観が広がり、婚姻数や出生数の減少に拍車をかけています。さらには、芸能人や著名人、時には政治家らが声高らかに主張する、「結婚するかは個人の自由」「子供を持つかどうかもライフスタイルの一つ」という個人主義思想に影響される若い世代が増えています。また、「おひとりさま」という言葉が浸透したように、独身を積極的に肯定する風潮も見られます。
このように、恋愛・結婚自体に価値を見出せない若者が多くなれば、必然的に出生率が下がっていくのは当然です。
本を読まない、本を買わない
日本において読書が最も盛んで、本の売上がピークに達した時期は、1990年代半ばから後半にかけてです。出版業界全体の売上高は、1996年に約2兆6,564億円でピークを迎えました。しかしながら、2000年代に入り出版業界は右肩下がりで、電子書籍で本を読むユーザーが増えたとはいえ、全体的には本を読む習慣が減り、2000年前後には約2万店舗あった書店が、今では1万店を切る勢いで減少しています。なぜ、ここまで読書習慣が減少してしまったのかを、いくつかの項目に分けてみました。
スマホの台頭
情報を得る手段がガラリと変わりました。今では、朝刊を読んで時事を掴む必要はなく、通勤通学途中でスマホでニュースを確認すれば、大まかな情報を片手で得ることができます。なので、新聞も読まれなくなりましたが、情報誌を読む必要もほぼなくなりました。スマホを開けば、そこにはつい1時間前の出来事が載っています。もはや、情報入手経路や娯楽も含め、スマホで全てが完結してしまうのです。ちょっとした知識や情報もインターネットからいくらでも仕入れることができるので、専門書を読むよりずっと楽ちんです。
安価で大量の娯楽コンテンツ
家に篭っていても楽しめる趣味に絞っても、NetflixやYouTube、ソーシャルゲームなど、安価で大量の娯楽コンテンツが無数に提供されているので、いくらでも楽しい時間を消費することができてしまいます。しかし、時間は有限であり1日24時間しかありません。その限られた時間の中で、いかにして人の時間をたくさん奪えるかが娯楽コンテンツの要です。となれば、読書は集中力を要するため、他の娯楽コンテンツに比べて難易度が高いので、選ばれにくくなっています。
オンライン書店の台頭
読みたい本が書店に必ずあるとは限りません。書店スペースは有限だからです。しかし、Amazonをはじめとしたオンライン書店では、ほとんどの本を家にいながら手軽に注文できます。それが、たとえ夜中であってでもです。ベストセラー書などは、町の本屋さんでも買えますが、ニッチな専門書等を買うのであれば、断然オンライン書店の方が有利です。そして、電子書籍もあります。これには在庫という概念がなく、電子データなので購入したら即読み始めることができ、たいへん便利です。これらオンライン書店によって、読書の手軽さは進みましたが、結果的には町の書店の減少の一因になっています。
このように、情報の取得手段の容易さや趣味の多様さにより、読書習慣は減少しています。また、本の購入手段の変化によって、書店は苦しい状況になっています。
出生率と読書率の等価性について考察
様々な要因で、出生率と読書率は右肩下がりになっていますが、この二つに重なり合う共通点はあるのかを考えてみました。
それは『効率化の推進』であると思います。現代社会は途轍もなく便利な世の中です。そんな中で生きていると、より効率的に生きるために、さらなる便利を追い求めます。自分が求めることを達成するために、取捨選択を繰り返していくのです。結果、自分にとって不利なことや不必要なものはどんどん排除されていき、より効率的な生き方が推進されていきます。
効率的であると一見スマートに見えますが、その反面、何か大切なことが欠落しているようにも思えます。女性モデルでも、痩せすぎていると一見シャープで綺麗に見えますが、逆に貧相な感じがするのと同じで、ある程度は肉付きがいい方がより美しく、写真映えも良いでしょう。「効率」の反対語は「無駄」であるとするならば、ある程度の無駄は人生で必要なことだと思うのです。無駄と言っても、それは本当にムダなことではなく、実は大切な要素がたくさん絡んでいたりします。
子どもを産んで養うのはたいへんなことです。ときには、経済的な面で苦労したり、自分のやりたいことを放棄して子どもの世話をしなければならないことも多々あるでしょう。しかし、その反面、楽しいこともたくさんありますし、なによりも、親から受け継いだ命を次に紡ぐことができるのですから、子どもは宝ですし、大きな喜びです。
本を読むことはたいへんなことです。活字を追って読むのですから面倒臭いですし、一冊読み終わるまでそれなりの時間も要します。しかし、その反面、楽しいこともたくさんあり、文学作品などには映画やドラマでは味わえない、文字だけが与えてくれる静かな感動があります。新書等では、ウェブやSNSで拾いきれない深くて広い知識を身につけられるので、本は人生の糧になるくらい良いものです。
出生率にしても読書率にしても、もっともっと率を上げていかないと日本の未来は暗いと感じます。そうならない為には、一人ひとりが自我充実を抑えて、本当の意味での豊かな生き方に切り替えていかなければなりません。散歩の途中に回り道をしたお陰で、今まで気づかなかった素敵な風景に出会えることもあります。効率的な生き方なんてケチ臭いしつまらない、もっと、人間らしさを味わいながらゆったりと生きていきたいものです。
かしこ
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