この本は本屋さんに面陳で置かれていると、誰しもが手に取りたくなるのではないでしょうか。私もその1人でした。青い色彩がとても鮮やかで綺麗なので、思わず手が伸びます。そして、著者がオードリー若林正恭さんであり、初の小説というのですから、絶対に読みたくなりますよね。それで、こうして購入して読んだわけですが、本の表紙はとても大事なセールス・ポイントだと思いました。
物語は、高校生のアメリカン・フットボールのお話です。
主人公のアリ(中村)は、総大三高アメフト部に所属しており、3年生として最後の春大会に挑みますが、強豪の遼西学園に敗れてしまいます。その後、帰宅部の不良仲間とつるむようになりますが、人にぶつかっていないと生きがいを感じられない自分に気づきます。本来なら3年生は受験勉強のために引退するところですが、アリは再びアメフト部へと復帰します。そこで、2年の松原、ダイブツ、チョモらと協力して練習に励み、秋大会で池ノ上高校と対戦して見事勝利を収めます。
アメフトの専門用語がちょくちょく出てきますし、そもそもアメフトのルールもまったく知らない私でしたが、最後まで混乱することなく読み終えることができました。そのため、同じようにアメフトに興味がない人がこの本を読んでも大丈夫だと思います。アメフトについて、この本から得た面白い知識があります。それは、試合中に相手から倒されて仰向けになることを「アオテン」と言い、これが最も屈辱的な状態であるということです。この本のタイトルである「アオテン」には、そんな意味があったのですね。
ライバルである伊武が所属する遼西学園に敗れて引退となったアリですが、不良仲間たちとつるんでいてもそこには生きがいがないことに気づき、大学受験勉強を捨ててアメフト部に復帰するさまは、まるで昭和時代のスポ根的な展開です。主人公のアリにとって、高校生活をダラダラと空虚に過ごすことはできなかったのでしょう。アリは作中で「人にぶつかっていないと、自分が生きているかどうかよくわからない」と言っていることから、かなり熱い男なのだろうと推測できます。この話の舞台は平成11年なので少し昭和の香りがしますが、現代の若者の間で薄れてしまっている「熱き魂」を感じ得たのは、私がオジサンだからでしょうか😂
ただ単に熱血漢の小説というわけではなく、清々しさも感じられました。多少の人間関係の摩擦を自ら乗り越えて、結果的には春大会で果たせなかった勝利を、相手校は違うものの果たせたのは、実に清々しい展開でした。大学受験の大切な時期に部活動に励むなど、まさにファンタジーであり現実的ではありませんが、そんな部分もこの小説の面白みの一部だと思います。また、そんなアリを陰ながら支える友がいて、一学年下の部員たちとの友情もあり、それらが合わさって本当に爽やかな青春小説だと感じました。
後悔のある人生でいいのだ。
そして、最終章での遼西学園との試合がこの小説のキモでしょう。この試合は、言ってみれば主人公のアリの妄想なのだろうと思いますが、ここが私としてはとても心に残ったエピソードであり、この本の全てであると言えます。結局はこの試合でも大差で負けるのですが、アリは最後にライバルの伊武を倒して「アオテン」させます。これでアリは、やり残した過去にけりをつけたのです。そもそも「小説」というものは、著者の空想であり妄想の物語です。その空想の物語の中で、さらに空想した物語を展開しているのですね。私はこんな小説を読んだことがありません。なんてすごい仕掛けなのだろうかと感動しました🤩
若き日の自分が渇望していたものは、誰にでもあると思います。しかし、実際には自分の望んだ結果にならなかったことの方が多いのではないでしょうか。たとえば部活の試合であれば、優勝できるのは1チームだけであるため、必然的に負ける経験をするチームの方が多くなり、結果として悔しい思いをする人の方が多くなります。そして、もし相手チームに今作の「伊武」のようなライバルがいたとしたら、絶対に負かしたいという想いは残るはずです。過ぎ去った青春時代は二度と戻りませんが、空想の中では相手を倒すことができます。そして、その空想をアウトプットできるのが「小説」というものなのだと思います。
後悔のない人間なんていないですし、後悔していいのだと思います。現実の空想の中で相手を「アオテン」させて気晴らしをする。これで構わないのだと思います。今年ここまで読んだ中で、ピカイチの文学小説でした。『青天』をおすすめします。
かしこ

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