現代の日本は『スピードと効率』の時代です。
なんでも効率よく、そしてスピーディーにこなす。隙のない人生が持て囃されています。実にいい時代になったと言える反面、なにか腑に落ちない感じもします。
今回はこれについて語ってみたいと思います。
早過ぎるネットインフラ
本格的なネット社会と言われるようになってから20数年が過ぎました。インターネットのインフラが整備されてから、私たちの生活環境は大きく進化しました。そして今もなおスピードと効率を極めるために進化し続けています。
インターネットが普及し始めた2000年くらいまでは、まだまだアナログ回線での通信がメインだったので、高画質の画像1枚でも表示するのにもたつきましたが、今となっては4K動画も余裕で視聴できます。それもパソコンを使わなくても手のひらサイズのスマホでどこにいても容易に使うことができます。Z世代と言われる方達には当たり前のことかもしれませんが、昭和を知る我々の世代から見ると大変な進化です。
ネットの通信速度的には、一つの到達点に達したのではないでしょうか。もちろんまだまだ速度を上げる技術はあるでしょうが。
スピードと言えばリニアモーターの実用は、ネットインフラと比べるとずいぶん遅れています。私が小学校の頃の昭和時代からリニアモーターのニュースをテレビで見ていましたが、令和の時代になっても実用化されず、東京〜大阪間の開通予定が2045年ということです。開通されれば東京〜大阪間をわずか67分で移動できるということなので驚きの移動スピードなのですが、実用化までにはもう暫く時間が掛かるようです。
ちなみに超音速旅客機はコンコルドが代名詞でしたが、次世代機にブーム・スーパーソニックやスパイク・エアロスペースは数年後に登場予定です。ただし、燃費効率・環境規制・乗客の快適性の問題から、速度はコンコルドよりも僅かに抑えられるようです。
このように、人や物質の移動スピードアップには、最先端技術を用いてもそう易々と実現できません。実現するにはかなりの年数が掛かります。そう考えれば、ネットインフラのスピードアップ技術はとても早い進化だと言えます。
効率的に生きる
ネットインフラの充実に伴って、仕事や生活のあらゆる面で効率化も進んできました。一昔前はマルチメディアの中心はパソコンと言われていました。仕事関連はもちろんのこと、映像に音楽、ゲームもパソコンがあれば何でもできるという時代でした。
しかし今は、仕事関連はまだまだパソコンが主流でしょうが、その他のことはスマホやタブレットでこなせます。今時、音楽を聴くのにCDを買ったりしませんし、映画だってブルーレイディスクを買う人は稀でしょう。ゲームだってダウンロードが主流になりつつあります。テレビを観る人もかなり減ったようで、観たいテレビ番組はアプリで観れたりしますし、そもそもテレビ番組がつまらないのでYouTube等のデジタル動画に視聴者を随分奪われているようです。書籍も電子書籍の売上が年々増えているみたいなので、町の書店は近い将来に姿を消すかもしれません。仕事関連はパソコンと書きましたが、メールチェックや返信はスマホが主流でしょう。
これらはすべて『効率』を求めた結果です。
音楽や映画やゲームを楽しむために円盤をセットする必要などないのです。書籍だって何百冊買っても電子書籍なら書棚は入りません。動画コンテンツにしてもテレビより動画配信サイトの方が内容も充実していますし、4Kの高画質で楽しめるコンテンツもたくさんありますが、テレビの地上波放送は2Kのままで4Kは一部の衛星放送(BS・CS)のみです。
効率的な仕事やプライベート、どちらにしても省きたいのは無駄なコストと手間です。だから誰もが効率的な生き方を求めます。
タイパが過ぎると情緒欠乏
『スピードと効率』が大好きな時代ですが、さらに最近では『タイパ』なんて言葉も出てきました。『タイパ』とは「タイムパフォーマンス」の略で、かけた時間に対する満足度や効果を表す言葉です。コスパ(コストパフォーマンス)は支払った費用に対するパフォーマンスを意味する言葉でしたが、「タイパ」には更に効率を重んじた意味合いを感じます。
音楽好きの私はアルバム1枚を1時間くらい集中して聴いて楽しみますが、タイパ勢にはあり得ないことでしょう。何か作業しながらBGM的に聴くのでしょうね。YouTube動画やNetflix動画も再生スピードを上げて見るそうですが、まあそれでも内容がわかればいいのでしょう。ゲームも何時間もかけてやるのはタイパが悪いということで、ゲーム配信の動画で済ませるとか。そうなると、読書なんて最もタイパが悪い娯楽かもしれませんね、それこそ本は書かれている内容だけわかればいいのですからね。
仕事においてもプレゼンの資料を一から自分で作成するのは非効率です。今時は生成AIに任せられることは任せた方が遥かにタイパがいいです。
たしかに、スピードと効率のこの時代を生き抜くには正しい思考だと思います。
そう、決して間違っちゃいません……が……
得したようで何か大事なことを無くしてしまっています。それは『情緒』です。
情緒とは何かと問われると、私もはっきりとは説明できませんが、例えば旅行先で美しい風景を見たときに、言葉では言い表せない穏やかな気持ちになることがあります。この感情こそが情緒なのだと思います。そしてこの感情は人間としてとても大切な感情だと思います。便利にGoogleマップでハワイの夕日を見ても、実際にハワイの現地で見る夕日とでは、同じ綺麗な夕日であってもまったくの別物です。
素晴らしい物語の本を要約だけで簡単に読んでも、当然のことながら心から感動することなどできません。
何でもそうですが、スピードと効率をいくら上げても、そこに情緒が無ければ得られる情報量は乏しく、体験の質は劣化します。
別に不自由を求めているのではありません。便利な道具は大いに活用すべきです。私もウェブサイトの長いニュース記事は、ChatGPTに投げて要約して読んでます😆
なんだかんだ便利ですからね、生成AIは😉
でも、少々遅くても情緒たっぷりに得た体験の方が最終的には自分のためになると思います。
『スピードと効率』を活用しながら、時にはしっかりと自分の足元を見つめて立ち止まってみるのも大切なことだと思います。
かしこ
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