「痴人の愛」を読んだ感想

4. 趣味

 谷崎潤一郎さんの『痴人の愛』を読んだので、感想を語ります。私は谷崎潤一郎さんの本を読んだのは初めてです。読むきっかけになったのは、大好きな作家である阿刀田高さんが久しぶりの新作「谷崎潤一郎を知っていますか―愛と美の巨人を読む―」を出版されたからです。この本はまだ買ってないが、「谷崎潤一郎はどんな小説を書いているのだろう」と興味を湧き、どうやら代表作らしい『痴人の愛』を手にすることになりました。
大好きな作家が取り上げる作家の本に興味を持つ感覚は、大好きな音楽家が取り上げる音楽家の音楽を聴いてみたくなるの同意だと思います。

あらすじ

 物語は真面目な男である河合譲治が、カフェで働いているナオミと出会い、妻になるところから始まる。この時、譲治が28歳でナオミが15歳なので結構な歳の差である。初めのうちは夫婦としてうまくいっていたのだが、数年時が過ぎると、どうもナオミの行動に不審な点があることに譲治は気づく。趣味のダンスを通じて知り合った男友達との仲が、友達を超えた関係になっているのではないかと心配するようになり、予想通り不倫をしていることを知りショックを受ける。ナオミと二度と不倫をしないように約束をするが、ナオミはすぐにこの約束を反故したことに譲治は憤怒して、ついには家から追い出す。追い出したものの、ナオミを愛しく想う気持ちは消えず苦しむ。しかし、ナオミはかなりの数の男と不倫していることを知り、さすがに呆れてナオミへの想いを断ち切る。しかし、数年後にナオミが譲治の自宅に度々来るようになったのをきっかけに、もう一度ナオミとの仲を取り戻すようになる。

主人公の変貌ぶり驚愕です

 中盤まで読んで、この物語は元祖寝取られ不倫ものの小説だという印象を受けました。私はこの手の話は大嫌いなので、読んでいてとても胸糞悪くなりましたが、さらに読み進めていくと、あまりにもナオミの不倫行動がサバサバしているので、逆に呆れてしまいました。
次から次へと男を魅了するナオミは小悪魔的ではあるのですが、陰険さがないのです。一般的に不倫ものの物語がドロドロした陰湿な男と女のドラマという感じですが、ここまであけすけだと嫌らしさがありません。ナオミのような、いわゆる軽い女は、さんざん男達にいいように利用されて、最後は泣きを見るというのが物語のパターンですが、この物語はそういったことはなく、最後まで楽しく男達と遊びまくる女であるところが面白いと思いました。
 そして、譲治の変貌ぶりにはびっくりしました。
気の弱い真面目なサラリーマンという性格で、ナオミへの苦心に対して同情して読んでいましたが、終盤では、とてもバカな男に変貌します。なぜこんなに変貌するのだろう? 筆者は何を考えてこうしたのだろうか? とも思いましたが、もしかすると初めから譲治はこういう性質の男だったのかもしれません。真面目に生きることで自分の本性を覆い隠していたのかとも考えられます。

 この物語は最後にどういう結末を迎えるかと興味深く読み進めましたが、なんかよくわからない所に落ち着いたというのが私の正直な感想です。途中で、ナオミは殺されるのではないかと予測していましたが、そうはなりませんでした。読んでいる途中は面白かったのに、読み終えてがっかりしました。珍しいパターンでした。

かしこ

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